人事戦略
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『マルハニチロにおける人事変革』を開催しました。

出演者

楠田 祐 様

HRエグゼクティブ
コンソーシアム 代表
ファシリテーター

楠田 祐 様

NECなど東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後に1998年よりベンチャー企業社長を10年経験。会長を経験後2010年より中央大学ビジネススクール客員教授(MBA)を7年間経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。2015年は日テレのNEWSZEROのコメンテーターを担当。2016年より人事向けラジオ番組「楠田祐の人事放送局」のパーソナリティを毎週担当。2017年より現職。専門は人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で非常勤役員や顧問なども担う。シンガーソングライターとしても本業として活躍。主な著書:「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン) 2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。他に「内定力2016~就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)などがある。

若松 功 様

マルハニチロ株式会社 人事部長

若松 功 様

1985年、新卒で大洋漁業株式会社入社。人事課に配属され採用担当。1988年に水産部福岡鮮魚課に異動し、買参人としてセリに出て鮮魚の買付販売を4年。その後関東支社にて業務用冷凍食品を販売。1994年から労働組合へ10年間出向。2004年から経営企画部へ。2007年株式会社ニチロと経営統合。2010年より人事部で労務に従事し2016年から人事部長。現在に至る。

成瀬 仁美

株式会社ワークス・ジャパン 司会

成瀬 仁美

「世界においしいしあわせを」をキャッチフレーズとして活動

楠田 楠田
本日はマルハニチロの人事部長・若松さんに、「マルハニチロの人事変革」と題して、新卒採用、人事制度改革、女性活躍推進といった点に関する取り組みについてお話いただきたいと思います。
若松 若松
最初に簡単にマルハニチロの紹介をさせていただきます。当社は「世界においしいしあわせを」をキャッチフレーズに掲げています。また企業理念は「マルハニチログループは誠実を旨とし、本物・安心・健康な食の提供を通じて、人々の豊かなくらしとしあわせに貢献します」ということです。これまで海と100年以上に渡って向き合ってきた会社としての知見と財産を活かし、ブランド提供価値として「新たな『食』の可能性に挑み、世界の人々に、生きる活力を提供する」を定めました。さらに、ブランドのありたい姿として「“母なる海”-Mother Ocean-のような存在となる」ことを目指しています。
 歴史的には1880年創業のマルハと、1907年創業のニチロという二つの会社が2007年10月に統合してマルハニチロとなりました。日本に75、海外に77のグループ会社があります。事業は大きく分けて二つです。一つは水産ビジネスで、漁業、養殖、水産加工、トレーディング、荷受などを手がけています。もう一つは加工食品ビジネスで、冷凍食品(家庭用・業務用)、常温食品(家庭用・業務用)、化成品を扱っています。物流も担っていて、冷蔵庫も多数保有しています。マルハニチログループの10年後のありたい姿として「グローバル領域で『マルハニチロ』ブランドの水産品、加工食品を生産・販売する総合食品企業」となることを描いています。グループ全体での従業員数は約1万3,000人で、マルハニチロ株式会社本体では約3,500人、本社採用の正社員は2,000人弱です。売上高は8,625億円(2021年3月期)で、食品業界の中では8位の位置にあります。

新卒採用スローガンとして掲げる「挑戦せよ! 境界なき食の世界へ」

若松 若松
ここから、当社の事業内容や特長に触れながら、新卒採用についてのお話をしていきます。採用スローガンとして「挑戦せよ! 境界なき食の世界へ」を掲げています。水産物をコアにして、世界の人々の健康を支えるグローバルなバリューチェーンを持っていることが当社の強みです。調達、生産・加工、保管・輸送、といった段階を経て水産物を食卓へお届けしているわけですが、それぞれの段階に特長があります。調達では、国内外の生産・販売拠点が200超あり、買付地は約70カ国、水産物取扱高年間70万トン超で、圧倒的な水産物調達ネットワークを誇っています。生産・加工については、世界各地に加工拠点がありますが、国内では全国に7つの直営工場があり、それぞれ異なる商品を製造しています。例えば、下関工場ではちくわ/フリーズドライ、広島工場では冷凍食品、宇都宮工場では魚肉ハムソーセージ、冷凍食品といった具合です。また、茨城県・つくば市に機能性食品の開発などに取り組む中央研究所、東京都中央区に冷凍食品の試作などに取り組む開発センターがあります。
 仕事の流れで言うと、水産ビジネスは水産物商社部門とお考えください。まず買い付けがあります。世界各地で水揚げされる水産物の質を自らの目で見極め、為替の状況等を見ながら、最良のタイミングで買い付けを行います。そのために社員は、海外駐在・海外出張していますし、電話やメールで海外と頻繁にやりとりをしています。買い付けた水産物は、切り身にする、骨を抜く、殻を取るといった加工をします。社員は加工工場で生産管理や品質管理に携わっています。加工した後は、卸売業者やスーパー、生協などに商品を提案して販売します。加工食品ビジネスについては、食品メーカー部門とお考えください。研究では、食品に付加できる有効成分の利用、介護食の開発や味・食感の研究等に長期的な視野で取り組んでいます。商品開発では、市場ニーズを察知し、企画・試作を繰り返して新商品を開発しています。当社では、缶詰、瓶詰、レトルト食品、冷凍食品など多彩な商品があり、フリーズドライ食品、機能性食品、さらには宇宙食、化成品(健康食品・化粧品)といったものまで扱っています。開発した商品は、国内外の工場で商品を大量に製造します。その後、食品問屋、スーパー、生協、コンビニエンスストアなどに商品を提案して販売しています。
 このように当社の仕事では、取引先が国・地域の境界がなくグローバルに広がっていて、商品カテゴリーの境界もありません。先ほどお示しした採用スローガン、「挑戦せよ! 境界なき食の世界へ」に含まれる「境界なき」というところがポイントになっているのです。
楠田 楠田
マルハニチロさんには、すごく幅広い仕事があるわけですね。グローバルに活躍する商社機能もあれば、身近な食品を製造するメーカー機能もある。いわゆるジョブ型では、全体を理解できないので、新卒社員には幅広い経験を積んでほしいとお考えでしょうか。
若松 若松
まさにそうですね。近年、ジョブ型での採用が流行していますが、マルハニチロの場合は、自分のできる仕事の範囲を広げながら、いろいろ新しいことに挑戦していってほしいので、メンバーシップ型の採用ということになります。
 また、事業の特性を踏まえたうえで、私たちは求める人物像として、①マルハニチロで食の世界に挑戦したい志がある方、②“向上心”と“適応力”を持っている方の2点を定めています。このなかで“向上心”とは、「現状に満足せず、自ら考えて行動し、成長していけること」、“適応力”とは「どのような環境下においても高いパフォーマンスを発揮できる能力」であると考えています。

若手社員のユニークな生の声が学生を惹きつけている

成瀬 成瀬
御社の魅力や強みといったものをどのように学生に伝えていくか、という部分では、何か工夫されていることはあるでしょうか。
若松 若松
コロナ禍もあり、対面でできないことがあるので、オンラインを駆使しながら伝える努力をしています。人事担当者では伝えきれないことがたくさんあるので、そこは第一線で活躍している社員に協力してもらっています。
楠田 楠田
マルハニチロさんの新卒採用ホームページを拝見すると、冷凍食品の営業担当の方が「お客さまの心は冷やさない」と言っていたりして、なかなか面白い。
成瀬 成瀬
新卒採用プロモーションの一つに、第一線で働く社員の方々が前面に出てくるところが特徴になっていますね。調達担当の方が「ポークを極め、ビーフに挑戦する6年目の主任」とおっしゃっていたり、別の調達担当の方が「仕事でもプライベートでも、海を、魚を、愛する営業担当」とおっしゃっていたり。ご自身の経験から出てくる言葉の強さを感じました。
若松 若松
個性があっていいですよね。私は最終面接で学生さんにお会いしますが、「どうしてマルハニチロを志望したのですか」と質問すると、「社員が魅力的だった」「こういう人たちと一緒に働きたい」という答えがダントツに多い。
成瀬 成瀬
学生さんの傾向として、希望する部署に配属してほしいという考えの強い人が多いと思います。人事担当の皆さまは、そこで悩んでいらっしゃるようです。マルハニチロさんの場合、冒頭にお話された「世界においしいしあわせを」というスローガンや、採用スローガン「挑戦せよ! 境界なき食の世界へ」といったものと、学生さんの希望とのマッチングが重要になるのでしょうか。
若松 若松
今の若い方の傾向は、成瀬さんのおっしゃる通りだと思います。そこで、内定を出した後からも、結構な回数の面談を重ねて、「何がしたいのか」というヒアリングをしています。もちろん、全部が全部かなえられるわけではありませんが、そういう努力をしたうえで4月の入社を迎えるようにしています。
楠田 楠田
学生のやりたいことは、自分の知っている範囲のことに過ぎないので、会社としてはこういう仕事があるよ、という情報提供も重要です。
若松 若松
そうですね。内定者に向けて、各課でこういう仕事をしています、という部署紹介をして情報共有に努めています。
楠田 楠田
部署紹介はぜひやったほうがいい。やりたいことだけやらせてあげるというのは、ちょっとおかしいと気づき始めた企業もあります。若い人が見聞を広めることによって、価値観を変えていく。そのことで企業の成長に貢献できるということだと思います。

賃金テーブルを見直し、飛び級も導入2022年4月から始まった新人事制度

若松 若松
次にマルハニチロの人事制度についてお話いたします。当社は2007年10月に、マルハとニチロが統合してできた会社なので、人事制度も二つありました。最初の課題は、これをどうやって統合していくか。少し時間を要しましたが、2010年4月に旅費規程などの統一を図るため、いったんマルハの人事制度に片寄せしました。その後、2014年4月に、マルハニチロとして初めての人事制度を構築しました。そして2022年4月から、新しい人事制度を導入することになった次第です。
 新しい人事制度は、①管理職の力量アップ、②エンゲージメントの高い組織へ、③イノベーションあふれる組織へ、④実力や貢献に応じた処遇、⑤D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の実現、⑥公平な福利厚生という観点から、それぞれポリシーを定めました。
 ①では、ライン管理職のマネジメントスキルをバージョンアップすることをポリシーとし、360度評価*1 を導入、ライン管理職研修を実施することにしました。②では、会社と社員のWin-Winの関係を目指すこととし、エンゲージメントサーベイ*2、1 on 1ミーティング*3を導入しました。③では、チャレンジやコラボレーションが起こる社内の仕組みの構築に取り組んでいます。部署の垣根を超えて希望者を募る社内公募、自ら希望部署に異動を願い出るFA(フリーエージェント)といった制度を導入しました。FAは入社10年未満の社員が対象で、同一部署に5年以上在籍した場合、本人の異動希望を所属長が拒否できないというルールです。優秀な社員を所属長が手放さないことがあるため、こうした制度を盛り込みました。さらにチャレンジに対して加点評価するチャレンジ評価制度も新しい施策です。このほか、入社1、2年目の社員の相談役となり、メンタル面のサポートをするメンターを比較的年の近い先輩社員が務めることにしました。メンターは入社1、2年目の社員1人対して2人用意することを原則としています。業務を指導するOJTとは異なるので、異なる部署の人が務めるものです。
④では、実力が公正に反映される仕組みの構築を目指しています。まず賃金テーブルを見直しました。遠隔地への転勤がある総合職と、勤務地がエリア内に限定されるエリア職があり、基本給のテーブル(マルハニチロではコア能力給と呼ぶ)が異なっていましたが、これを一本化しました。その代わり、総合職には全国加算給を設けて、従来のテーブルの差を補填しています。また、若手の昇給を手厚くする一方、マイナス昇給もあり、としました。さらに等級の見直しにも踏み込み、飛び級できる制度としています。従来は総合職の場合、6級からスタートして1級になると課長代理相当になる仕組みで、6段階あったのですが、サブ等級を設けて3級(C→B→A)、2級(B→A)、1級の3段階としました。全部のステップを踏めば、6段階で同じなのですが、3Cや3Bから2Bへ、2Bから1級へという飛び級を認めることにしたのです。また、エリア職は従来、2級止まりだったのですが、1級への昇格を認めることにしました。このほか、従来の業績目標をKPI目標に変更しました。これは自分の所属する部署の業績さえよければよい、という考え方でなく、全社的な目標の達成を視野に入れてほしい、という考え方を反映したものです。
⑤では、先にも触れましたが、転勤しない働き方をする人が増えていることを踏まえてエリア管理職を導入しています。また、1 on 1ミーティングによって、部下のキャリア形成の希望に耳を傾けることにより、多様な人材が活躍できる風土を醸成したいと考えています。
⑥では、社宅制度や住宅手当を廃止し、その原資を基本給に加えてベースアップを図ることにしました。個人の属性に偏らない公平な福利厚生制度にしたいという想いからです。また、カフェテリアプランを導入し、ライフステージに合ったサービスを利用できる形にしました。新しい人事制度については、以上です。

*1 1人の従業員に対し、さまざまな関係者が評価を行う手法。上司や人事担当者だけでなく、同僚や部下からの評価も行う。

*2  エンゲージメントとは、個人と組織の成長の方向性が連動し、互いに貢献し合える関係のこと。エンゲージメントサーベイは、従業員と会社の間のエンゲージメントを数値化して現状把握する調査。

*3  部下が主役となって上司と1対1で行う対話型の面談。双方向のコミュニケーションを通して、部下は自主的に行動するようになり、上司は新しい考えを採り入れるようになることを目指している。

双方向のコミュニケーションを目指す1 on 1ミーティングの開催

成瀬 成瀬
ありがとうございました。人事制度についての質問が届いています。1 on 1ミーティングは全社員を対象とするものか、またミーティングの開催頻度はどうなのか、さらに1 on 1ミーティングを導入するにあたって研修をどうしたのか、といった質問です。いかがでしょうか。
若松 若松
まずいくつかの部署でテスト導入してみて、その結果、実施することが望ましいという判断をして、全社的に行うことにしました。導入にあたっては、上司向けの研修、部下向けの研修、それぞれ実施しています。なぜ1 on 1ミーティングをするのか、といった点も含めて地ならしをしました。これについてはeラーニングも活用しています。ミーティングの開催頻度は、推奨ということですが、2週間に1回程度が望ましいと考えています。時間は15分とか30分とか短時間でよいので、定期的にやることが大事です、とお伝えしています。
成瀬 成瀬
楠田先生、1 on 1ミーティングは本来、双方向のコミュニケーションを目的としていると思うのですが、そこがうまくいっていないという話を耳にすることがあります。1 on 1ミーティングを実施するにあたって、何か注意点はあるでしょうか。
楠田 楠田
コロナ禍で緊急自体宣言が出たあたりから、マネージャーが部下に対して、「今月、予算達成できるのか」みたいな行動確認のためのワンウェイになっている例がすごく増えているようですね。マルハニチロさんは、そうならないための対策を打っていますか。
若松 若松
定期的に「ブカシル(部下知る)通信」というものを発信していて、コミュニケーションが一方通行にならないように注意喚起をしています。また、目安箱も設けて、1 on 1ミーティングが本来の目的に沿った形で機能するように、アイデアを出し合ってもらっています。コロナ禍が落ち着いても、全社員が出社する時代に戻らないかもしれません。柔軟な働き方を前提にすると、目の前にいない部下をいかにマネジメントしていくかが重要になります。それには対話を重ねる以外にありません。そうすると、もしかしたら教科書的な1 on 1ミーティングだけでなく、例えば3人で話すとか、進化形が出てくる可能性もあります。自社なりのコミュニケーションのあり方をどんどん作っていかなければならないかもしれません。

女性、男性それぞれを対象としたダイバー視点(シティ)フォーラムの開催

若松 若松
続きまして、女性活躍のテーマに移ります。女性活躍というと、社内的には最初、見向きもされないところから始まりました。担当者がかわいそうだったので、ガンジーの言葉を引用して「偉大なる運動は、無関心、嘲笑、非難、抑圧、尊敬という5つの段階を経る」みたいなことを言って励ましていました。
楠田 楠田
若松さんも最初は、マルハの旧社名である大洋漁業に入社されて、セリに出て鮮魚の買い付けを経験されています。黒い長靴を履いているイメージがあるから、男社会を連想します。そこをどう変えていくか。人事としても経営としても、これは大変なチャレンジだったのではないでしょうか。ただ、人事担当の女性社員も増えていますよね。
若松 若松
増えています。結構、頑張っていると思います。それで女性活躍として、2007年から、人材育成と環境整備の2点に取り組むことにしました。人材育成では、昇格機会やキャリアを考える機会、平等な教育や仕事配分の機会提供がポイントです。啓発のために、ダイバー視点(シティ)フォーラムを開催しました。女性編と男性編、それぞれ開催しました。2018年に開催した女性対象のフォーラムでは、ダイバーシティとはそもそもなんですか、というところから始めて、マルハニチロの考えるダイバーシティはこんなことですよ、といったお話をしました。社員一人ひとりが個性や能力を発揮できること、もう一つは組織に参画できること。どちらかが欠けても、ダイバーシティにはなりません、ということを伝えました。会長や社長も参加しています。女性編は2回実施したのですが、「なぜ女性だけ集めるのか」という声もありました。「問題は男性でしょ」ということですね。そういう声をいただくことも、開催意義の一つだったと思います。2019年には男性を対象としたフォーラムを開催しました。ダイバー視点(シティ)フォーラムでは、専門家の講義の内容や議論の中身を絵(イラスト)を使って議事録風に残すという工夫をしました。
 人材育成のもう一つの柱は、両立支援です。育児休業の前後に、復職前後セミナーを開催しました。両立支援に関しては、「TOPAPAスムカム」という企画を立ち上げて、セミナーの実施、webサイトやeラーニングの講座などを通して情報提供に努めています。「TOPAPAスムカム」というネーミングですが、男性が育児休職できない状況を突破するとか、パパとか、スムーズにカムバックとか、そのような意味合いが込められています。先ほど触れた「ブカシル(部下知る)通信」もそうですが、当社では、何かイベントや企画をする時に、こういうちょっと楽しくなるようなネーミングをするカルチャーがあります。

多彩なメニューで女性活躍を推進男性管理職に受け止めの変化も

若松 若松
環境整備の面では、健康に働ける職場づくり、育児との両立支援、柔軟な働きやすさといった点がポイントです。健康に働ける職場づくりの一つとして、女性の健康をテーマとしたイベント・セミナーを実施しています。また、女性のための健康支援アプリを1カ月、無料で使用できる機会を作り、40人の女性に参加していただきました。生理周期や基礎体温の管理、婦人科FAQと医師の回答、ライフステージに合わせた多彩なコンテンツといった内容のものです。女性特有の疾病に関する情報提供ができたと思います。
Web配信によるエクササイズレッスンも実施しました。在宅勤務による運動不足、肩こり改善のため、在宅・オフィスの両方で実践できるよう各2回ずつ計4回動画配信したものです。総再生回数705回で、後日、イベント終了後も行いたいという声を多数いただきました。ほかに、当社の保健師、臨床心理士(いずれも女性)による座談会も実施しています。在宅勤務による運動不足、更年期、仕事と育児の両立など、トークテーマを設けて開催しました。後日、個別対応した方も含めて56人の参加がありました。エクオール(女性ホルモンのエストロゲンに似た働きをする成分)セミナーも実施しました。女性ホルモンの基礎知識や女性特有の疾患や症状、対処法といった内容のものです。webも含めて36人の参加がありました。男女ともに対象にした骨密度の測定会も開きました。男性32人、女性94人、計126人の参加を得ています。
このように女性の健康に関しては、幅広くさまざまな取り組みをしているわけですが、男性と女性では、想いがすれ違うことがあります。男性は経験がなくわからない、どこまで踏み込んでいいのかわからない、業務に支障があるのになぜ女性ばかり優遇するのか、といった想いがあるようです。一方、女性は恥ずかしい、理解してもらえない、周りに迷惑をかけるので休めない、性差優遇と健康管理は別問題といった想いがあるようです。そこで対策として、健康課題について周囲の理解を深める機会を提供したり、健康推進室のスタッフによる相談窓口を設置したりしています。
当社では新卒採用人数をみると、2018年に男性41人・女性17人でしたが、2022年は男性25人・女性25人でした。2018年に女性の割合は29%でしたが、年々増えて2022年には50%になっています。
成瀬 成瀬
新卒で女性の採用を増やすために、何か取り組まれたことはあるのでしょうか。
若松 若松
じつは、食品業界はもともと女性に人気があるので、特別なことをしたということはりません。
楠田 楠田
男性の管理職で、女性活躍のために、どうしてこんなにいろいろなことをやらなければならないのか、といった反応はなかったですか。
若松 若松
それはありました。いろんなイベントをやりながら、乗り越えてきたということです。イベントに幹部を巻き込むことで、少しずつ空気を変えてきました。また、実際に女性の新卒を配属したら、最初は抵抗感を持っていた男性管理職が、「女性のほうが断然よかった」という反応に変化したということもありました。少しずつ受け入れてもらったということです。このほか、柔軟な働きやすさという観点では、コアタイムなしのフレックスを導入しました。育児や介護に時間を使う必要のある人からは、大変感謝されています。

自社製品を食べて健康になるDHCチャレンジの成果

成瀬 成瀬
女性の健康についてのお話をうかがったので、マルハニチロさんの健康経営についても少し教えていただけますでしょうか。
若松 若松
当社は「健康経営銘柄2022」に選定されています。これは経済産業省が東京証券取引所と共同で、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組む上場企業として選定しているものです。重点課題へのハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの二つに分けて実施しているのですが、後者の取り組みで特徴的な「DHCチャレンジ」について、少しご紹介したいと思います。
DHC(ドコサヘキサエン酸)は、魚に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種で、食品から直接摂取する必要があることから、必須脂肪酸と呼ばれています。もともと当社製品の「DHA入り リサーラソーセージ」を一定期間食べると、中性脂肪の低下が期待できることがわかっていました。そこで、「さんま水煮」「釧路のいわし水煮」「「DHA入り リサーラソーセージ」「減塩さんま蒲焼」「減塩さは水煮」といった当社製品を無料配布し、1~2カ月間、配布商品を1つ必ず食べるというチャレンジをしてもらいました。2019年、2020年、2021年と3年間、このチャレンジを続けてきているのですが、2021年の結果をみると、男性148人、女性45人が参加してくれて、有効回答者が171人、平均年齢が40.8歳でした。健康指標の変化ですが、チャレンジ開始前に比べて、中性脂肪が13.2%低下、悪玉コレステロール(LDL-C)が4.6%低下、善玉コレステロール(HDL-C)が2%増加ということです。この結果には、産業医の方も驚いていました。
楠田 楠田
社員の方が実験に参加しているわけですね。それで、自社製品を積極的に食べると、健康によい結果をもたらすことがわかったと。マルハニチロの社員のエンゲージメントは上がりますね。ウェルビーイング的なエンゲージサーベイになっていると思います。
成瀬 成瀬
マルハニチロさんならではの取り組みと、その成果だったのではないでしょうか。大変興味深いお話です。本日は、「マルハニチロの人事変革」と題して、新卒採用、人事制度改革、女性活躍推進をテーマにお話を伺い、最後に関連して健康経営のユニークな取り組み事例についても教えていただきました。ありがとうございました。