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人的資本経営調査から紐解く現在地と課題、推進に向けたヒント

日本経済新聞社とワークス・ジャパンが、東証プライム上場、または従業員数1,000人以上の大手企業を対象(374社)に共同で実施した『人的資本経営調査』によると、調査対象企業の約8割が人的資本経営の推進に取り組んでいることが分かりました 。

既に多くの企業が着手していることから、人的資本経営は導入段階の佳境は越えたと言えるでしょう。いよいよ精度を向上させるフェーズに突入した一方で、調査結果からは「配置戦略」「後継者育成」など、多くの企業が難題を抱えている様子が伺えます。

そこで今回は、「テルモ株式会社」と「三井住友トラスト・ホールディングス株式会社」をゲストにお招きし、【WORKS REVIEW】を開催致しました。

日本経済新聞社とワークス・ジャパンが共同で実施した『人的資本経営調査』を参考に、人的資本経営の現状と課題を解説すると共に、推進に向けた施策や戦略などについてレビューします!

 

 INDEX 

人的資本経営とは何か?

人的資本経営の現在地 ~調査から見えた実践への道筋~ 【WORKS REVIEW】 実施内容

- 【調査結果】人的資本経営の現状
- 各社のROIに関する取り組み 戦略のストーリー性
- 後継者・次世代リーダー育成 組織文化とコミュニティの形成
- データ活用による人材配置 キャリア形成と適材適所の実現

人的資本経営実践についての詳しい内容は「アーカイブ配信」で!

 
 
 

◆ 人的資本経営とは何か?


 
経済産業省では、人的資本経営を下記の通り定義しています。

 
“人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。”

引用:経済産業省『人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~』

 
従来の採用戦略では、人材は物資や資産と同様に『資源(Human Resource)』の1つに含まれていました。そのため、採用や育成などの人材にかかるコストはなるべく抑え、高いコストパフォーマンスを発揮する戦略が望ましいとされてきました。
一方、人的資本経営は、経営戦略と適合的な育成や教育への投資、適切な機会や環境を提供などによって価値を最大限に引き出す人材戦略を指し、人材は『資本(Human Capital)』に位置付けられます。
 
経営戦略と人事戦略を連動させ、代替不可能な人材価値を創造することは、企業にとっても持続的な成長や価値向上につながります。このように産業構造の急激な変化や少子高齢化に伴う労働人口の減少、働き方に関する価値観の多様化といった社会環境の変化の中でも、企業と人材の双方が共に持続可能な成長を実現できることから、日本でも人的資本経営の実現に向けて多くの企業が取り組みを始めるようになりました。

 

◆ WORKS REVIEW 実施内容


 
企業が持続的な成長を遂げるためには、人材を資本として捉える「人的資本経営」が不可欠です。しかし人的資本経営の推進を図る上で、「人的資本の可視化」「企業の将来を担う人材の育成」など、様々な課題を抱える人事ご担当者様も少なくないでしょう。
 
そこで今回は、「テルモ株式会社」「三井住友トラスト・ホールディングス株式会社」の採用ご担当者をお招きし、ファシリテーターとして「京都大学経営管理大学院」の特命教授にご登壇いただきWORKS REVIEW を実施しました。
 
多くの企業が課題として挙げる「経営戦略を実現する後継社員の育成」や「社内の人材活用」などのテーマを中心に、人的資本経営における現状の課題や人材価値向上に向けた取り組みをご紹介頂きました。

出演者

足立 朋子 氏

テルモ株式会社
経営役員CHRO兼グローバル人事部長

足立 朋子 氏

東京大学文学部卒。1990年~2005年および2010年~2019年にわたりソニー(日米欧)にて、人事制度企画、チェンジマネジメント、組織・人財開発などを推進。
2005年~2009年は欧州にて人事コンサルタント業を営み
日欧グローバル企業向け人事戦略・施策の支援を行う。
2019年よりテルモ株式会社のグローバル人事戦略を担当。
8事業の内4つの事業本社が海外という環境でグローバル企業としての人事施策を企画、推進。2023年4月より現職。

藤沢 卓己 氏

三井住友トラスト・ホールディングス株式会社
執行役常務

藤沢 卓己 氏

1967年兵庫県出身。1990年住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社、以降、事業会社や投資家向けビジネス等に従事。
2023年よりグループ人事の統括役員となり、社員のWell-Being推進など人的資本高度化への戦略立案・施策推進を担う。

鵜澤 慎一郎 氏

京都大学経営管理大学院
特命教授

鵜澤 慎一郎 氏

事業会社およびコンサルティング会社で20年以上の人事変革経験を持ち、専門領域は人事戦略策定、
HRトランスフォーメーション、チェンジマネジメント、デジタル人事。
現在は会計系プロフェッショナルファームにおいて、組織・人事コンサルティングのAPAC兼日本地域リーダーを務める。
2020年9月からビジネス・ブレークスルー大学大学院(MBA)客員教授、2023年4月から京都大学経営管理大学院(MBA)特命教授に就任。

【調査結果】人的資本経営の現状



【現状】人的資本経営を推進する体制


今回実施した『人的資本経営調査』によると、調査対象374社のうち約8割が「人的資本経営に取り組む体制ができている」と回答しています。
本結果より、ある程度の規模を有する企業においては、CHROの設置など人的資本経営に取り組む基盤が整っている状態にあると言えるでしょう。
 



【現状】人的資本の情報開示状況


日本でも2023年3月期決算から、人的資本開示が義務化されましたが、ISO30414(*)の11項目の中では、情報の開示状況に差があることが分かりました。
なお、開示が最も進んでいる項目と進んでいない項目は、それぞれ下記の通りです。
 
● 情報開示が最も進んでいる項目:ダイバーシティ(多様性)
● 情報開示が最も進んでいない項目:後継者育成計画

※ISO30414・・・2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した、企業が人的資本の情報開示を行うためのガイドライン



「ダイバーシティ(多様性)」の開示割合が最も高くなった要因としては、金融庁の「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正や、厚生労働省の「女性活躍推進法」「育児・介護休業法」改正などで開示が義務化された、女性管理職比率や男女間賃金格差、男性の育児休業取得率に関連する項目であることが影響していると言えるでしょう。

また「後継者育成計画」については情報開示できている企業が少ないことから、人的資本経営推進に向けた重点課題になっていると推察されます。

各社のROIに関する取り組み 戦略のストーリー性


人的資本経営推進における悩みや課題としては、「人的資本経営への投資対効果の測定が困難」「経営戦略を実現する人材の育成が困難」の2項目が4割弱を占めています。
投資対効果を実感できるまで時間がかかる、どの施策から効果を得られたのか明確にしづらい、といった人的資本経営の特性がそのまま推進における課題や悩みに直結しているようです。

鵜澤 鵜澤
今回の調査によると、人的資本経営について多くの企業(82.1%)が取り組みを開始しています。

しかし課題もあり、「投資対効果の測定が困難」(38.2%)が最も多い回答でした。人材投資のリターンを数値化するのは容易ではなく、中長期的な時間もかかります。効果測定をどう捉えるかは、まさに人的資本経営の課題の象徴と言えるでしょう。各社の対応はいかがでしょうか。
藤沢 藤沢
『インプット→アウトプット→アウトカム』を基本とした一連の流れは実行しているものの、定量化や可視化にまでは及んでいない状況です。

統合報告書には、一人あたりにかかった研修費用や受講者数、時間などの数字を反映しています。ただ、数字だけに限らず、成長ドライバーとなっている事業やビジネスへの人的資本投資について、「どのような時間軸」「どのような効果」「どれくらいの規模」で投資をするのかという情報をストーリー立てて開示をすることも不可欠だと考えています。

例えば当社では、信託ビジネスを強みにしています。しかし信託ビジネスだけではなく、今注力している資産運用ビジネス等に人的資本を投資するなど、経済的利益や社会的利益、環境的利益を意識したメリハリのある投資・戦略ストーリーの構築・実行を意識しています。
足立 足立
テルモでも人的資本経営の推進においては、経営戦略と人事戦略を連動させ、施策の意図や背景をストーリー立てて明確にしていくこと大切だと考えています。

当社では、2022年~2027年までの5年間を対象とする5カ年成長戦略『GS26』を策定しています。『GS26』では、“デバイスからソリューションへ(From Devices to Solutions)”という経営戦略を掲げており、加速する医療のパラダイムシフトに応えるべく社員自身が成長・挑戦していくためのGrowth Mindset(成長思考)に向けて投資を行っています。

投資効果に関しては、やはり当社でも数字だけでは示しづらいと悩んでいる課題です。すぐにリターンを明確化しづらいこともあるため、戦略と意図に沿ったアクションをしていることを多角的に説明できるよう努めています。

後継者・次世代リーダー育成 組織文化とコミュニティの形成



社員教育・育成に関する課題

 
社員の教育・研修に関する課題として、「次世代リーダーの発掘・育成(50.3%)」がトップに位置し、「マネジメント層育成(46.5%)」が続きました。

マネジメント層や次世代リーダー層など、特定層への教育関心が高まっている様子が伺えます。

鵜澤 鵜澤
日本の経営者とセッションした投資家に話を伺うと、サクセッションプランをグローバル観点で実行しているのか、グループ全体で推進しているのかという問いに応えられないケースも多いと言います。先の「後継者育成計画の開示が進んでいない」「次世代リーダーの発掘・育成に課題を抱えている」という結果も紐づいていると感じますね。

また『サクセッションプラン』とは、一般的に即次期社長に昇任するようなフェーズを指します。しかし今回の調査では、一般管理職の層まで後継者育成に関する問題意識が及んでいると見て取れます。
社員育成について各社の取り組みはいかがでしょうか。
足立 足立
後継者・次世代リーダー育成においては、中長期視点を持ち広範囲の層のことを考え戦略を立てなければならないと考えています。そのため当社では戦略的なグローバルリーダー創出に向けて、3つのレイヤーを設け人材をプールし、育成にあたっています。

①カンパニーの経営ができそうな経営候補層
②中間管理職層
③社会人経験2~7年の若手層

レイヤー間にはネットワークやパイプラインを設け、より強固な組織文化とコミュニティの形成にも取り組んでいます。
藤沢 藤沢
三井住友トラスト・ホールディングスでは「SuMiTRUST University」と呼ばれる社内大学を設置し、階層別研修に加え、次世代リーダーの育成や信託グループならではの専門人材育に取り組んでいます。なお社内大学の運営にあたっては、産学連携を通じ、いち経営者として通用する人材の育成を念頭にプログラムの充実化も図っています。

また『グローバルリーダー』『ストラテジックリーダー』呼ばれる選抜型の研修も20年程前から設けています。本研修からは役員や主要部署の部長が多数輩出されていることもあり、選抜された社員のモチベーションになっているようです。

データ活用による人材配置 キャリア形成と適材適所の実現



経営戦略に基づいた外部採用人材の充足状況

 
新卒・キャリアともに採用マーケットは成熟しており、外部採用で「充足できている」と回答した企業は15%に留まる結果となりました。一方で「充足できていない」と回答する企業は34.8%にも上り、社内人材活用の必需性は増していると言えるでしょう。


新しい内部登用制度についての議論項目


社内人材の活用に向けては、「リスキリング(47.9%)」と「配置戦略の見直し(47.6%)」に注目が集まっているようです。

異動・配置についての課題


異動・配置についての課題としては、「中長期視点での人材配置」が最多となり、全体の6割を占めました。

鵜澤 鵜澤
「リスキリング」に関しては、言葉の認知が広く浸透したものの、成果や効果を感じられないといった回答が多数を占めるデータも散見されます。言葉だけで終わらず「どのようにして実りある取り組みに昇華していくのか」という点は、各社にとって大きな課題になっているでしょう。

また「中長期視点での人材配置」という課題に対しては、市場やニーズの変化、DX化の加速に伴い事業モデルの転換を求められている企業も多く、事業ポートフォリオを変更する企業も増えています。事業ポートフォリオが変わるということは、人材ポートフォリオ(配置構成)の変更も余儀なくされるでしょう。
アメリカでも深刻な人手不足が問題視されており、ジョブ型雇用にも限界が生じています。今では職能に重点を置いたマッチング(配置)にシフトしている市場変化も起きています。
人材の異動あるい配置に関して、どのように捉えられていますでしょうか。
藤沢 藤沢
現在は、タレントマネジメントシステムの導入準備を整えている最中です。もちろんシステムの導入が課題を解決に導くわけではありません。ただ配置戦略においては、“何を経験してきたか”が重視されるのではないかと思っています。やはり責任あるポジションを何度も経験した社員は、その分多くの苦労を積み重ねてきたと同時に、胆力や決断力といった経営者に求められる素養が養われています。

若い時から経営者に求められる素養を自然とあるいは意図的に身に付けてもらうプロセスが後継者・次世代リーダー育成には必要であると考えることから、タレントマネジメントシステムでも社員の経験をデータで管理・可視化しながら異動配置のミスマッチが起きない運営を実現していきたいと思っています。
足立 足立
テルモでも、「タレントマーケットプレイス」を導入する予定です。本システムでは、社員が自身のスキルや今後挑戦したい取り組みを入力し、組織側はプロジェクトの概要や運用・推進において必要となるスキル情報を反映します。双方が入力した情報をもとに、AIがマッチングを図るというものです。

これまでのように会社が全てマネジメントコントロールするのではなく、社員に対してもフェアな挑戦環境を設け適材適所への配置をプランニングしていきたいと考えています。

人的資本経営実践についての詳細は「アーカイブ配信」で!


<その他、こんなこともお話しています!>
  ◆ 女性活躍の環境づくり
  ◆ 業界・社風に合わせた人的資本経営戦略
  ◆ 社内大学活性化の取り組み 等

当日お話しいただいたWORKS REVIEWの動画をアーカイブで配信しています。
ターゲット学生を獲得するためのヒントを得られるはずです!ぜひご視聴ください。

 【アーカイブ配信対象】

 収録日: 2024/3/25
 テーマ: 「人的資本経営」の現在地 ~調査から見えた実践への道筋とは~

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<ご紹介>
本セミナーが日経ビジネススクールでも掲載されていますので、ぜひご覧ください。
人的資本経営、3割強が投資対効果に課題感 テルモ・三井住友トラストの対処法