採用面接において、応募者の人柄や能力を深く知りたいと思うあまり、踏み込んだ質問をしてしまうことがあるかもしれません。しかし、中には法律や個人の尊厳に関わる「面接で聞いてはいけない質問」が存在します。
これらの質問は、就職差別につながる恐れがあるだけでなく、企業の信頼を損なう重大なリスクをはらんでいます。
この記事では、人事担当者や面接官が知っておくべきNG質問の具体例、その背景にある原則、そして未然に防ぐための対策について詳しく解説します。
公正な採用選考のために面接官が守るべき3つの原則
公正な採用選考を実現するためには、すべての面接官が守るべき基本的な考え方が存在します。これは厚生労働省が示している指針であり、ハローワークなどでも同様の基準で指導が行われています。
採用活動に関わるすべての担当者は、これから紹介する原則を正しく理解し、日々の面接業務に臨む必要があります。これらの原則は、応募者の人権を守り、企業の社会的責任を果たすための基盤となるものです。
1. 応募者の基本的人権を尊重する
採用面接の基本は、応募者の基本的人権を尊重する姿勢にあります。
日本国憲法では、思想信条の自由や職業選択の自由が保障されており、採用選考においてこれらを侵害することは許されません。厚生労働省は、就職差別につながる恐れがあるとして、特に配慮すべき14の事項を具体的に示しています。
これらの事項に関する質問は、応募者のプライバシーを不当に侵害し、生まれ持った属性や本人の責任ではない事柄によって不利益な扱いを受ける原因となります。
面接官は、個人の尊厳を守るという意識を常に持つことが求められます。
2. 業務遂行に必要な適性と能力のみを評価基準とする
採用選考における評価基準は、応募者がその職務を遂行するために必要な適性や能力を持っているかどうかに限定されるべきです。応募者の出身地や家族構成、思想信条といった、本人の仕事ぶりとは直接関係のない事柄を採用基準に含めてはなりません。
例えば、将来の結婚や出産の予定を尋ねることは、性別による固定的な役割分担意識に基づく差別的な扱いにつながる可能性があります。
採用の判断は、あくまで客観的な事実に基づき、応募者がそのポジションで活躍できるかどうかという一点に絞って行う必要があります。
3. すべての応募者に平等な機会を提供する
採用の門戸は、応募を希望するすべての人に対して平等に開かれていなければなりません。特定の属性を持つ人々を最初から排除したり、一部の応募者に対してのみ有利または不利になるような選考を行ったりすることは、機会均等の原則に反します。
例えば、業務との関連性や個人情報保護に配慮せず、健康状態や既往歴について詳細に尋ねることは、特定の健康課題を持つ応募者を不当に排除することにつながる可能性があります。面接官は、自身の先入観や偏見が判断に影響を与えないよう、常に公平な視点を保つことが重要です。
【一覧】面接で聞いてはいけないNG質問の具体例

公正な採用選考の原則を理解した上で、具体的にどのような質問が不適切とされるのかを把握することが重要です。
これから挙げる質問は、応募者本人の適性や能力とは関係がなく、就職差別につながる可能性があるため、面接の場では避けるべきです。
悪意がなく、応募者とのコミュニケーションを円滑にするための雑談のつもりで尋ねた質問が、意図せず応募者を傷つけ、企業のリスクとなるケースも少なくありません。
代表的なNG質問の例を確認し、自社の面接内容を見直しましょう。
出身地や本籍地に関する質問
本籍地や出生地に関する質問は、部落差別の問題と深く関わってきた歴史的背景から、特に配慮が必要な項目とされています。
これらの情報は個人の能力や適性とは全く関係がなく、特定の地域出身であることを理由とした差別につながる恐れがあるため、法律の指針でも収集してはならない個人情報として明確に示されています。
また、「ご実家はどちらですか」といった一見何気ない質問も、応募者の出身地を探る意図があると解釈されかねないため避けるべきです。
話題が広がったとしても、これらのテーマに踏み込むことは厳禁です。
家族構成や家庭環境に関する質問
ご両親はどのようなお仕事をされていますかご兄弟はいらっしゃいますかといった家族構成や家庭環境に関する質問も不適切です。
これらの情報は応募者本人の責任ではない事柄であり、家庭環境によって応募者に優劣をつけるような選考は、就職差別に他なりません。
例えば、ひとり親家庭であることや、家族の職業、資産状況などを採用の判断材料にすることは許されません。
厚生労働省が公開している採用選考に関するpdf資料などでも、家庭の状況に関する質問は避けるべき項目として挙げられています。
保有資産や住宅状況に関する質問
応募者の経済状況に関する質問は、プライバシーの侵害にあたるため不適切です。
「お住まいは持ち家ですか、賃貸ですか」「貯金はどのくらいありますか」といった保有資産や住宅状況に関する質問は、応募者の経済的な背景を探る行為であり、採用選考の基準とすべきではありません。
これらの情報が業務の遂行能力と関連することはなく、応募者に不快感や不信感を与える原因となります。
応募者からの逆質問で住宅手当に関する話題が出たとしても、それに応じて応募者個人の住居状況を深掘りすることは避ける必要があります。
思想や信条に関する質問
人生観や生活信条、支持する思想など、個人の内面に関わる事柄を尋ねることは、憲法で保障された「思想・良心の自由」を侵害する可能性があります。
これらの質問は、企業側が応募者の価値観を評価し、自社の考え方に合わない人物を排除しようとしていると受け取られかねません。
思想や信条は個人の自由な選択に委ねられるべきものであり、業務遂行能力とは無関係です。
応募者に特定の価値観を表明させるような質問は、公正な採用選考の原則から逸脱する行為であり、厳に慎むべきです。
信仰している宗教に関する質問
信仰している宗教や宗派を尋ねることは、「信教の自由」という基本的人権を侵害する行為です。
宗教は個人の思想・信条の根幹をなす非常にデリケートな情報であり、採用の判断材料にすることは明確な差別につながります。
業務上、特定の宗教的知識が必要といった極めて例外的なケースを除き、宗教に関する話題に触れること自体を避けるべきです。応募者が身につけているものなどから特定の信仰を推測し、それについて言及することも不適切な行為とみなされる可能性があります。
支持している政党に関する質問
どの政党を支持していますかといった政治に関する質問も、応募者の思想信条を探る行為であり、行ってはなりません。
政治的信条は個人の自由な判断に基づくものであり、それを理由に採用の可否を判断することは、公正な採用選考の理念に反します。
過去の政治活動への参加経験などを尋ねることも同様に不適切です。
企業が応募者の政治的立場を詮索することは、思想調査と受け取られても仕方がなく、企業の採用姿勢そのものが社会的に厳しく問われることになります。
尊敬する人物や愛読書に関する質問
応募者の人柄や価値観を知る目的で、「尊敬する人物」や「愛読書」を尋ねるケースが見られますが、これも思想・信条の詮索につながる可能性があるため注意が必要です。
応募者が挙げた人物や書物名から、その人の政治的・思想的背景を推測し、評価に反映させることは不適切です。
これらの質問は、本来評価すべき業務上の適性や能力から離れ、面接官の主観的な判断を招きやすくなります。応募者の内面を探るのではなく、あくまで職務に関連する経験やスキルに焦点を当てた質問を心がけるべきです。
労働組合や学生運動への参加経験に関する質問
労働組合への加入状況や、過去の学生運動への参加経験を尋ねることは、応募者の思想・信条を調査する行為とみなされ、不適切です。
これらの活動歴は、個人の思想信条に基づいて行われるものであり、業務遂行能力とは直接関係がありません。特定の活動歴を持つことを理由に採用で不利益な扱いをすることは、思想・信条を理由とした差別に該当します。
応募者の過去の所属団体や活動について、業務に関係のない範囲で深掘りすることは避ける必要があります。
SOGI(性的指向・性自認)に関する質問
SOGIとは、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)を指す言葉です。
個人のセクシュアリティに関する情報は、極めてプライベートな事柄であり、これについて尋ねることは重大な人権侵害にあたります。
結婚の予定や恋人の有無に関する質問も、異性愛を前提とした質問となり、意図せずSOGIに踏み込んでしまう危険性があります。
応募者の性的指向や性自認は、業務上の能力とは全く無関係であり、いかなる理由があっても面接で尋ねてはならない事項です。
質問の仕方に注意が必要なデリケートな項目

明確なNG質問以外にも、尋ね方によっては不適切とみなされるデリケートな項目が存在します。
これらの項目は、業務との関連性を説明できないまま質問すると、応募者に不信感を与えたり、プライバシーの侵害にあたると判断されたりする可能性があります。
法律に直接抵触しない場合でも、企業の評判を損ねるリスクをはらんでいるため、質問の必要性や表現方法について慎重に検討することが求められます。
業務に支障をきたす可能性のある健康状態
応募者の健康状態について質問する際は、細心の注意が必要です。
漠然と「持病はありますか」と尋ねることは、プライバシーの侵害にあたる可能性があります。
質問の意図を明確にするため、「この業務では週に数回、20kg程度の荷物を運ぶことがありますが、業務に支障はありますか」のように、具体的な業務内容を示した上で、その業務の遂行が可能かどうかを確認する形に留めるべきです。
あくまで業務遂行能力の確認が目的であり、応募者の健康状態を根掘り葉掘り聞くことは避ける必要があります。
過去の犯罪経歴について
応募者の犯罪経歴は、非常に機微な個人情報であり、原則として質問すべきではありません。
しかし、金融機関や警備会社など、職務の性質上、高い清廉性が求められる特定の業種においては、業務との関連性が認められる範囲で確認が必要となる場合があります。
その場合でも、なぜその情報が必要なのかを応募者に丁寧に説明し、同意を得た上で、必要最小限の範囲で質問することが不可欠です。安易に犯罪経歴を尋ねることは、重大なプライバシー侵害となり、法的な問題に発展するリスクがあります。
テレワーク環境の整備状況
テレワーク制度を導入している企業では、応募者の自宅の就業環境について確認したい場合があります。
しかし、「自宅に仕事専用の部屋はありますか」や「インターネット回線の速度は十分ですか」といった質問は、応募者の住宅事情や経済状況を探るものと受け取られかねません。
質問する際は、「業務に必要なPCや通信機器は会社から貸与しますが、ご自宅で業務を行う上で支障はございませんか」のように、あくまで業務遂行の可否を問う表現にすることが重要です。
プライベートな領域に過度に踏み込まない配慮が求められます。
不適切な質問が企業に与える3つの重大なリスク

面接で不適切な質問をしてしまうことは、応募者に不快感を与えるだけでなく、企業経営に直接的な打撃を与える可能性があります。法的なペナルティや金銭的な損失、そして社会的な信用の失墜といった、深刻な事態を招きかねません。
ここでは、NG質問が企業にもたらす3つの重大なリスクについて具体的に解説します。
これらのリスクを正しく認識し、コンプライアンスを遵守した採用活動を行うことの重要性を理解する必要があります。
1. 法律違反による行政指導や罰則の可能性
職業安定法では、採用選考にあたって個人情報を収集する際は、業務の目的達成に必要な範囲内に限ると定められています。本人の適性や能力に関係のない個人情報を収集した場合、この法律に違反する可能性があります。
違反が認められると、厚生労働大臣による助言や指導、改善命令の対象となります。
さらに、改善命令に従わなかった場合には、罰金などの罰則が科されることもあります。
法律違反の事実は企業の社会的信用を大きく傷つけるため、法令遵守は採用活動の絶対的な前提条件です。
2. 応募者からの損害賠償請求訴訟に発展する恐れ
面接官による不適切な質問が原因で、応募者が精神的苦痛を受けたとして、損害賠償を求める訴訟を起こされるリスクがあります。
過去の裁判例では、面接でのプライバシー侵害や差別的発言が違法であると認定され、企業側に慰謝料の支払いが命じられたケースも存在します。
訴訟に発展すれば、賠償金の支払いという金銭的な負担はもちろん、裁判対応にかかる時間や労力、そして報道などによる信用の低下など、企業が被るダメージは計り知れません。
一つの不適切な質問が、長期にわたる経営リスクとなるのです。
3. SNSでの拡散による企業イメージの低下
現代社会において、個人の体験はSNSを通じて瞬く間に社会全体に共有されます。
面接で不適切な質問をされた応募者が、その経験をSNSに投稿すれば、企業の採用姿勢やコンプライアンス意識に対する批判が殺到する可能性があります。
一度ネガティブな情報がインターネット上で拡散されると、それを完全に消し去ることは極めて困難です。
結果として、「ブラック企業」といった不名誉なレッテルを貼られ、企業ブランドイメージが著しく低下し、その後の採用活動が困難になるだけでなく、既存の顧客や取引先との関係にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
NG質問を未然に防ぐための社内体制づくり

不適切な質問をなくすためには、面接官一人ひとりの意識向上に頼るだけでなく、組織全体で取り組む仕組みづくりが不可欠です。NG質問を未然に防ぎ、公正な採用選考を全社的に徹底するためには、明確なルールの設定と継続的な教育が重要になります。
ここでは、NG質問を防止し、健全な採用活動を維持するための具体的な社内体制づくりの方法を4つ紹介します。
これらの取り組みを通じて、誰が面接官を担当しても、一貫した基準で面接を実施できる環境を整えましょう。
厚生労働省のガイドラインを社内で共有する
最初のステップとして、厚生労働省が策定した「公正な採用選考の基本」をはじめとする公的なガイドラインを、人事部門だけでなく、面接官となる可能性のあるすべての社員と共有することが重要です。
ガイドラインの内容を社内イントラネットに掲載したり、定期的に研修会を実施したりすることで、なぜ特定の質問が禁止されているのか、その背景にある法的な根拠や人権尊重の理念を組織全体で理解します。
これにより、全社的なコンプライアンス意識の土台を築くことができます。
面接官向けの質問マニュアルを作成し配布する
ガイドラインの共有に加え、自社の状況に合わせた独自の面接マニュアルを作成し、配布することも極めて有効です。
このマニュアルには、NG質問の具体例とその理由、推奨される質問例、評価基準などを明確に記載します。
これにより、面接官の経験やスキルレベルによる面接の質のばらつきを防ぎ、客観的で一貫性のある選考が実現します。
特に面接経験の浅い社員にとっては、具体的な行動指針となり、安心して面接に臨むための拠り所となります。
定期的な面接官トレーニングで意識を高める
知識のインプットだけでは、無意識の偏見や質問の癖を是正することは困難です。
そのため、定期的に面接官向けのトレーニングを実施することが推奨されます。
トレーニングでは、実際の面接場面を想定したロールプレイングを取り入れ、参加者同士でフィードバックを行う機会を設けると効果的です。他の面接官の視点から指摘を受けることで、自分では気づきにくい問題点を客観的に把握し、質問スキルを向上させることができます。
継続的な訓練を通じて、面接官全体の意識と技術レベルを高めます。
質問項目のチェックリストを作成し面接前に確認する
面接に臨む直前に、準備した質問項目が適切かどうかを最終確認するためのチェックリストを活用することも有効な手段です。チェックリストには、「応募者の適性・能力に関係のない質問は含まれていないか」「プライバシーを侵害する恐れのある質問はないか」といった具体的な確認項目を設けます。
面接官は、このリストに沿って自らの質問をセルフチェックすることで、うっかり不適切な質問をしてしまうというヒューマンエラーを防ぐことができます。
客観的な視点で質問内容を再点検する習慣を定着させます。
もしNG質問をしてしまった場合の正しい対応方法

どれほど入念な準備と対策を講じても、意図せず不適切な質問をしてしまう可能性を完全には排除できません。
万が一、面接中にNG質問をしてしまったことに気づいた場合、その後の対応が極めて重要になります。
パニックにならず、冷静かつ誠実に対応することで、応募者の不信感を最小限に食い止め、企業へのダメージを軽減することが可能です。
ここでは、万が一の事態に備え、知っておくべき正しい対応方法を解説します。
その場で率直に謝罪し質問を撤回する
不適切な質問をしてしまったと認識した瞬間、最も重要なのは、言い訳をせずにその場で率直に謝罪することです。
「大変失礼いたしました。今の質問は不適切でしたので、撤回させていただきます」とはっきりと伝え、非を認める姿勢を示します。ここで曖昧な態度を取ったり、ごまかそうとしたりすると、応募者の不信感はさらに増大します。
迅速かつ誠実な謝罪は、企業としてのコンプライアンス意識の高さを示すことにもつながり、ダメージを最小限に抑えるための第一歩となります。
質問の意図を丁寧に説明し応募者の懸念を払拭する
謝罪と質問の撤回に加えて、なぜそのような質問に至ったのか、本来の意図を丁寧に説明することも有効な場合があります。
例えば、転勤の可否を確認する意図で家族構成に関する質問をしてしまったのであれば、「本来であれば転勤の可否についてお伺いすべきところ、大変配慮に欠ける質問をしてしまいました。申し訳ありません」のように説明します。
差別的な意図がなかったことを伝え、応募者が抱いたであろう懸念を払拭するよう努めることで、誠実なコミュニケーションを図る姿勢を示すことができます。
まとめ
面接で聞いてはいけない質問は、応募者の基本的人権に関わる重要な問題であり、企業のコンプライアンスが厳しく問われる領域です。不適切な質問は、職業安定法などの法律に抵触するだけでなく、訴訟リスクやSNSでの炎上による企業イメージの低下など、経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
採用活動の目的は、あくまで応募者の適性と能力を公正に評価することです。
人事担当者や面接官は、厚生労働省のガイドラインなどを通じてNG質問に関する知識を常にアップデートし、社内での研修やマニュアル整備を徹底することが求められます。
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